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03 決死行……敵の牙城・シャリアン城を脱出せよ!


 

 果たしてうまくゆくのだろうか。リョウは僅かながら不安を抱いていた。シャリアン城の兵士たちの中に無論、クレアの息が掛かったものがいるのだが、油断はできない。城の警備は次の新月に向けて厳しくなりつつある。シャロンに逃げられてはならない。 
 リョウはまだ足取りのおぼつかないシャロンを背中に従わせると扉を開けた。番兵の交代時間はとうに過ぎ、先程の男ではなく女が立っていた。リョウは警戒するような姿勢は見せずに、女の顔を確認する。どうやら、ここまではリョウたちの画策したようにことは運んでいるようだった。 
「リーフ……、手配は?」リョウはやや緊張した面持ちで問う。 
「できているわ、一応ね。でも、一階の兵士たちを全て引き払わせることはできないわ。危険よ」 
「それは承知だ。だが、シャロンをこのままピクサスの元に、黄泉に渡すことはできない。……成功したらシャリアン城を突破するリスクを負う価値はある。それはリーフも判っているだろう」 
 冷静にリョウは言った。その冷徹さが戦場でリョウを支えるのだ。 
「勿論よ。確認のために言っておくけど、階下ではティアとフェイが誘導するわ。反乱軍が陽動作戦を開始するのは当初の予定通り、変更なしよ。奇襲だけにシャリアン正規軍が動きだすまでには時間がかかると思うけど、城内が混乱する十数分しか機会はない。秩序が戻ったら一巻の終わり。そう心得て。リョウに限ってそんなことはないと思う。でも、シャロンがいるから」 
 心配そうにリーフは言った。クレアにとってシャロンが全ての鍵であるだけに、この作戦の失敗は即ち敗北、黄泉の復活を直接意味する。どうしてもシャロンを城の外に連れ出さねば、クレアに有利に物事を進めることはできないのだ。 
「ああ、大丈夫だ。この娘は恐怖に立ち止まらない。足手まといにはならないさ。それにフェイとティアがいれば何とかなる。よし、次の巡回が来る前に階下に下りる。――その後は運次第だ。そして、リーフ、君も最初の予定の通りに、適度なタイミングで脱走を上部に報告しろ。でなければ、君に危険が及ぶ。君も重要な戦力だからな」 
「ええ、こっちのことは任せとおいて」短くリーフは答えた。「そんなことより、シャロンに早く鎧を身に付けさせなさい。そんな当たり前の格好をさせていたら無理よ。クローゼットの奥に隠してあるから」リーフも気が気ではないらしかった。 
 リョウはリーフの言葉の通りに部屋のクローゼットに入った。元々監禁室ではないのでそのような物まで設置されている。そうであるからまた、隠し物をするのに意外と困らずに済む。さっさと鎧を取り出してくるとリョウはシャロンにそれを身に付けさせようとした。 
「重いが我慢しろな。これがなければ流矢にでもあったたら大変なことになる」シャロンは黙ってリョウの言う通りにしていた。リョウは慣れた手付きでてきぱきと鎧を着せる。全てを完了するまでにはさほどの時間は必要としなかった。「さて、後はこれを被ってくれ」 
 最後に兜をシャロンに手渡した。思ったよりは似合っていたが、何だかちぐはぐだ。どうやらサイズが大きすぎたらしい。それでも女性用の鎧の普通サイズだから、シャロンの背はそれ程大きくないことになる。その姿でまともに走れるか少々不安だが、別段、シャロンが剣を振るうわけでもないので何とかなるだろう。とリョウは考えた。 
「シャロン、俺の背中から絶対に離れるな。離れたらどうなっても知らんぞ。よし、来い!」 
 再び、部屋の外に姿を現す。今度は二人の兵士の姿がある。先程まで部屋の隅にうずくまっていた少女はここにはいない。リョウはシャロンの方に振り返り、そして、リーフを見ると目配せをした。準備完了の合図だ。リョウは踵を返すと階段に向かった。 
「シャロン、生きたかったら俺から離れるな」 
 シャロンの顔も見ずにリョウは言った。逆にそのことがこれから始まろうとすることの大きさを端的に物語っているようだった。“行く”と言ってしまったことに一瞬の後悔も感じた。けれども、リョウの背中を見ているとそんな気の迷いは吹き飛ばされた。信じていればきっと駆け抜けられるに違いない。どこかここと違う場所にいける。今はそれだけでもいい。 
(賭け……だな。反乱軍の突入に乗じてどこまでうまくいくか……)難しい顔をしている。 
「どうかしたの? リョウ」立ち止まったリョウの顔をやや斜め後側からシャロンが覗き込んだ。 
「いや――。何でもない」リョウは鞘から剣を抜いた。「付いてこい!」 
 小さな戦いの始まりだ。リョウは階段を下り始める。作戦通りにことが運べばそろそろ反乱軍が攻撃を仕掛ける頃合いだ。それに乗じ、彼らはシャロンをシャリアン城から連れ出すのだ。通常の警備状況であるならそれは不可能なことだ。いくら味方の鎧を身に付けていて変装していても着なれていないせいの違和感だけは拭いきれない。危険は伴っても時機はこの時しかないのだ。リョウは己の剣の腕に全てをかけていた。シャロンはリョウの言葉をただ信じるしかない。自分の命をつなぎ止めるもの、それがリョウなのだから。 
 階段を下り初めてしばらくして、階下で大きな爆発音が聞こえた。始まった。シャリアン公爵に対する憤りが爆発したのだ。シャリアンの対外、対内への圧力がこのような結果を導きだしたのだ。アーメリアル王国の中で最大の町、その経済力を背景にした傲慢な態度が反感を買わせる。いつしか、ピクサスの支配を断ち切るための運動が起きていた。その反乱軍もクレアとは無関係ではなかった。利害関係は一致していたために決起の時を重ね合わせたのだ。 

* 

 シャリアン城の正面辺りはもくもくとした煙が立ち上っていた。反乱軍は爆薬をしけけたらしい。細かい手の込んだ繊細な模様を彫り込んだ壁は無残に破壊され、瓦礫になっていた。そこにタイミングを合わせて反乱軍が突入した。シャリアン側にとっては完全に奇襲だった。それはシャリアンの支配に刃向かうものはいないと言った奢りのなせる技だった。実際、およそ十年前にファメルを打ちのめして以来、内乱は起きていない。そのため、城を守るはずの歩哨も手薄だった。シャリアン正規軍は反乱を抑止するという重大な任務を怠っていたのだ。 
 考えられないような出来事。それが今まさに起こっている。そうでもなければ僅か数千の反乱軍がおよそ二万のシャリアン正規軍に戦いを挑むことなどできなかったはずだ。その打つ手を見付けられずに燻っていた反乱軍を行動に移させたのが、クレアのジャンリュックだった。シャロンを奪うためとシャリアン公による悪政を撤廃するために反乱軍をまとめ上げた。 
 そのような経緯で姿を現した反乱軍は突然のことに戸惑う一般兵士を蹴散らしながら城内へと侵攻している。勿論、正規軍と互角に渡り合えるほどの戦力は持ち合わせていないので、城内を混乱させるのが目的だった。ピクサス・シャリアンを市政から引きずり下ろすための前段だ。 
「チッ、火薬の量が少なすぎたか? 城の半分は吹き飛ばしてやろうと思ったが……?」 
 腕組みをして、シャリアン城を見上げながらごつい体つきの男が言った。 
「無茶を言うな。クレアの連中まで吹き飛ばせば、全面戦争になっちまうぜ」 
「馬鹿言うな。俺がそんなことをする訳なかろう。ジャンリュックは町の最長老だ。フン? ともかくだ、俺たちは俺たちに与えられた使命を果たすまで。じいさんはシャロンとか言う娘を奪いたいんだろ? 何だか知らないが。ピクサスに関する点ではクレアと似たようなもんだ。だったら手を貸す。御託はいいな。俺たちも戦線に合流するぞ」 
「はっ! 団長殿!」 
 二人の男は並み居るシャリアン兵たちを切り倒しながら奥へと進む。正規軍が出っ張ってくるまで城内を撹乱させる。撹乱させなければならない。市民の力を思い知らせ、ピクサスを追い払う。何故今、戦うのか。悪戯に正規軍の体制を強化するだけではないのか。反乱軍の首領もそのようなことをジャンリュックに漏らしていた。今、戦う理由。それは無論、黄泉の復活を阻止すること。確かにそのような伝承があることは首領も心得ていた。つまりはピクサスが黄泉の力を手中に収めたならば、正規軍がどうのとは言ってはいられなくなるということだ。それが反乱軍の闘志に火を付けた。そして、反乱軍の全てがここにある。 
 城内は既に戦場と化していた。シャリアン側には常駐の兵士が千、しかも、爆発騒ぎでその四分の一ほどは死傷しており、反乱軍が有利に戦いを進めている。二千ほどの兵士が入るためにはさほど広くもない正面大ホールにはもう、様々な物体が転がり始めていた。爆発で吹っ飛ばされた瓦礫や、ほんの僅か前までは人間の体だったものの一部。そしてまた、人から物へと大勢が変わっていく。戦に慣れていないものなどは卒倒ものだ。 
 腹を割かれて倒れているもの、胴体を失った頭やら、腕や足がその主を失って行き場のない哀れなものが床に転がっている。ただ、それだけだったのならまだ良かったのかもしれない。ところ構わずにあるそれは踏み付けられ、潰され、見るも無残な状態になっている。シャリアン城の床はそれこそ血の湖だった。いや、湖というほど綺麗なものではない。凝固しどす黒くなる血液の液面には様々なおぞましいものが浮いているのだ。それは手足や首と言った部分の原形すらも止めていない。ひき肉と粉々にされた骨。それ以上の言い表し方などないくらいだった。 

 ほぼ同じころ。リョウはシャロンを引き連れて一階に辿り着いたところだった。 
「ティア! 様子はどうだ。行けそうか」 
 リョウは階段から数メートル離れた辺りにいる女兵士に向けて怒鳴った。普通の声程度では周囲の雑音に掻き消されて届かない。剣と剣、鎧とかちあう音が折り重なって騒々しく城内に反響している。それはまた、戦闘の激しさを物語っているようだった。 
「行けるわ」ティアと呼ばれた兵士がリョウの方に駆け寄ってきた。「でも、その娘には何も見せないほうがいいわよ。間違いなく失神するわ」 
「かもな」こともなげにリョウは言った。「ところで、フェイはどうした」 
「裏門を張ってるわ。さ、行きましょう。グズグズしていたら正規軍が現れるわ。そうなったらお手上げ」ティアはお手上げの仕草をした。「反乱軍も城外に正規軍の姿を確認した時点で撤退することになっているから、時間はあまりないわよ」 
 ティアは時間が気掛かりなようだった。反乱軍が攻撃を開始してから正規軍が現れるまでの時間は全くの予想でしかなかった。予想よりも早く来てしまえばそれだけ逃げおおせられる可能性は低くなるのだ。 
「ああ。シャロン、目をつぶれ。君のためのそうだ。……そして、俺の左手を離すな」シャロンは静かに頷くとリョウの左手を握った。それから目をつむる。「よし、走れ!」 
 リョウは右手で剣を構え、左手でシャロンを引っ張りながら走った。シャロンの左側には無論、ティアがついている。リョウの来たほうの階段から裏門に抜けるためには大ホールに通じる廊下を横切らねばならない。それは城の奥から援軍が来るのにも使われるに違いない通路なのだ。だが、城の構造上どうしてもそこを通らねばならない。隠し扉もいくつか存在しているようだが、そこまで調べ尽くす時間はなかったのだ。そのために陽動作戦に出たのだった。反乱軍が正面より攻め入ればこの場に居合わせた兵士は皆、大ホールに出払うだろうと読んだのだ。そのことは的中したらしく、これまでのところシャリアン兵には会っていない。 
 しかし、そう簡単には物事は運ばぬようだった。廊下の一部も戦場となっていた。リョウたちは反乱軍から見れば敵の姿をしている。下手をすれば反乱軍に逆にやられかねない。リョウは先手を打った。仲間が来たと思い込んだシャリアン兵士を何の躊躇もなく叩き切った。この際、進路を妨害するものは敵も味方も関係ない、いや、そんなことを言っていたら無事に外に出られない。それに自分たちを見たシャリアン兵士は消してしまわねば後々、厄介なことになるかもしれなかったのだ。 
 リョウは奇声を発しながら次々とシャリアン兵を打ち倒し、できる限りは反乱軍を倒さぬように先を急いだ。それは信じられぬ光景だった。戦闘には全くの素人を連れて剣を振るっているのだ。背後はティアが守っているとはいえなかなか尋常ではない。そして、更に驚くべきことにシャロンもリョウに息も切らさずに付いてきていた。リョウが剣を振るうことよりもむしろ、シャロンがリョウに付いてこられることの方が意外なことだった。 
 と、裏門が視界に入った。その門のところでは既に衛兵を打ちのめしたらしい男が余裕の態度を示して立っていた。 
「早く来い! 正規軍が動き始めたぞ。そろそろ反乱軍も撤退だ。俺たちの姿が目に付く前に城を離れないと厄介だ。二度とここには戻ってこれなくなるぞ」 
「フェイ、準備はできているのか」 
「無論だ」 
 フェイの返事を聞いた瞬間にはリョウたちはフェイの横に並んでいた。四人になった彼らは一気に裏門から通りに出た。するとそこには二頭立ての馬車が用意されていた。それに乗り短時間のうちにシャリアン城近辺から距離を置くのだ。四人は馬車に飛び乗った。郊外に出てそれから、改めて市街地に戻ってくる予定なのだ。どちらにしろ血に濡れた姿で町中をうろつくわけにはいかない。隠れ家で着替え、シャリアンに訪れる旅人風にクレアのアジトまで戻ってくるつもりなのだ。また、そうでなければシャロンを安全にかくまうなど不可能に近いことだった。 

 反乱軍は奇襲攻撃の労があってか予想以上の善戦をしていた。常駐兵士のほとんどを倒すことに成功し、自軍は全くと言っていいほど無傷だったのだ。シャリアン兵は奇襲に浮足立ち、日ごろの訓練の成果を出し切れなかったと言ったところだろう。が、事実上の白兵戦であるから個々の実力が反乱軍に比べて劣っていたとも考えられよう。 
「団長殿! シャリアン正規軍が西方より姿を現しました。総勢、約二千。隊列は完全には組まれていませんが、退路を断たれれば逃げ場を失います!」 
 城の外で見張りに立った兵士の一人が団長に伝令した。 
「突撃からどれだけ経った」団長は大声を張り上げて隣で剣を振るっている副団長に尋ねた。 
「約十五分であります」 
 しばしの間。作戦会議の時は十分以上の時間を稼げとなっていたから十分な時間を稼いだことになる。後は別動隊、シャロン奪取隊とでも言うべきか、が成功したかどうかだが、反乱軍側にそれは知りようもないことだ。この混戦状況の中では自軍内で情報がまともに伝わっていただけでも結構ましだった。ともすれば、訳の判らない状態の戦闘になりかねなかったのだから、知っていたらそれもまた奇跡に近いことだ。団長は決断を下した。 
「よし、全軍、撤退だ! 深追いはするな」 
 団長が号令をかける。すると、敵味方入り乱れての乱戦の中から反乱軍の安っぽい鎧を身に付けた連中が引き始めた。当初から予定していたことが兵士たちの間に浸透していただけに行動は早い。逃した敵に対する未練もないかのように次々にシャリアン城を後にする。追っ手もかからない。正規軍の体制は整っていなかったうえに、常駐兵士はほぼ全滅の憂き目にあったのだからそれも当然の結果だった。反乱軍の作戦は無事に終了した。 
 シャリアン正規軍が戦場に到着したころには無残な死骸が無数に転がっていただけだった。 

* 

 甲高く耳障りな足音が豪華な調度品で埋め尽くされた部屋にこだましていた。時刻は夕暮れを迎えていた。辺りも薄暗くなり、燭台の上に乗せられた豪華な蝋燭がピクサスの部屋を照らしていた。城の主のピクサスは部屋の奥まったところのゆったりしたソファに身を沈めている。 
「一体、これはどういうことなのだ? 軍団長よ。説明してもらおうか」 
 ピクサスは苛立たしげにサイドテーブルを指で叩き鳴らしている。その真正面に立った軍団長は語る言葉もなく立ち尽くしていた。明らかに彼の失態なのだ。重苦しい時が過ぎる。 
〈別に構わぬではないか、ピクサス〉どこからともなくずしんと腹の底に響くような低い声が聞こえた。〈慌てることはない。これでいいのだよ。逆に軍団長殿のお手柄だな。素晴らしい〉 
 軍団長はその沈んだ声の聞こえてくる方を捜そうと躍起になっていた。落ち着きなく辺りを見回している。しかし、声の主を捜し出そうとするのは不可能だ。より強く見入られたはずのピクサスでさえも声の主がどこにいるか判らないのだ。ただ確実にそれは存在している。 
〈私たちは二日後にシャロンを取り返せばいいのだ。それはピクサスの力をもってすれば簡単なことだろう。――心配しなくとも、全てのお膳立ては意識するしないに関わらず彼らがしてくれる。それが運命……。城の一つや二ついくらでも建てられる〉 
 ピクサスはうっとりのその言葉に聞き入っていた。心の九割までを邪に支配された男は黄泉に口答えすることなど夢にも考えていない。全ては黄泉の思う通りに動くのだ。ピクサスは黄泉の傀儡。自らの意志は持たずに、無論欲望はあった、黄泉の指示通りに動く人形だ。 
「しかし、黄泉様……?」 
 ただ、ピクサスは心配だった。黄泉の指示通りに動く人形だとしても、自らが有りとあらゆるものの支配者になると言った欲望だけは残っている。黄泉はそれを巧みに操り利用する。 
〈お前が心配するもの十分判るぞ。――だが、奴らの居場所を探すことなど、造作もないこと。手先がピクサスの元に情報を届ける。……そして、軍団長に再度登場を願おう〉 
 訳の判らぬ声に軍団長は体をぴくりと震わせる。何者かの冷たい視線が軍団長の背中に突き刺さる。振り返ってみても矢のような視線を放った人物はいない。それが次の失態があれば一体どのようなことになるのかを指し示しているかのようだった。軍団長の背中を冷や汗が流れていく。 
〈では、ピクサス頼むぞ……〉現れたときと同様に唐突にその声は消えた。 
 シャリアン城。それはこのシャリアン城下町を支配する男の権力の象徴だった。何もかもがあまりにも巨大で、ありもしないものを見せびらかしているようでもあった。その男は矮小で、卑屈で、そしてまた、他人の力を借りてこの力を築いたというのに人を顧みることは一度もなかった。だから、いくら優美さに満ちた城にいようとも、どのような贅沢をしようとも男の心は孤独のままなのだ。それが権力と引き換えに男が手に入れたものだった。孤独。その満たされない心の淋しさが、飽くことのない欲望が男を狂気に走らせたのかもしれない。