--. ending(最後の記憶)
そこはとても明るく大きな窓のある部屋だった。燭台がなくても窓から差し入れる陽の光が十分に明るく、ポカポカと気持ちがいい。綺麗に掃除された部屋、整えられた調度品、清潔なタオルケットにシーツ。
ココハドコダロウ……。
夢……。微睡みの彼方に見たどんな夢よりもステキで、夢よりも夢のような感覚。首を左右に振れば、視界が広がる。今まで見たこともないようなあらゆるものが見える。小さな衣装ダンスにその上に飾られた花瓶に生けられた花。窓の外に広がる緑色の世界。今なら、出来る。きっと、届く。かつて、何度試みても届くことのなかったあの扉に今日、今、この瞬間なら、手が届くのに違いない。
タオルケットをめくって、おぼつかない足取りで立ち上がり、震える足でたどたどしくあの扉に向かう。邪魔をされる気配はない。だから、今日ならきっと、遠い昔に忘れてしまった煌めく光のある世界の扉を開けられる。幼い日になくしてしまった大切な何かを取り戻せそうな気さえする。暖かな空気。いくら望んでも手に入れられなかった憧れに出会える。そんな淡い期待。
デモ、ココハドコダロウ……。
悪い夢はいつか必ず覚めるものだと信じていた。
そう、そして、それは今、この時に醒めるのに違いない。
文:篠原くれん 挿絵・タイトルイラスト:晴嵐改 |